あなたが、いま英語学習で最も悩んでいるのは、
次のうちの、どれですか。
- □ 単語を覚えても、すぐに抜け落ちていく
- □ ネイティブの会話が、いまだに早すぎる
- □ 言いたいことがあっても、口から出てこない
- □ 自分の英語を録音して、聞き返したくない
- □ 何年やっても、伸びている実感がない
答えが、どれであっても、構いません。
ここに並んだ5つは、5つの違う問題ではなく、
1つの根に生えた、5本の枝だからです。
そのことを、3つの場面から、お見せします。
100回めくった単語が、3日で消える理由。
あなたは、TOEIC の単語帳を、3週間で3周しました。
4週目の月曜の朝、最初のページに戻って、最初の10語を見直してみる。
ところが、半分は「あれ、これ何だっけ」になっている。
なぜか。
答えは、努力でも、根性でもありませんでした。
脳のしくみの話です。
私たちの記憶のなかには、
2秒間しか開かない、小さな部屋があります。
新しい単語を聞いた瞬間、脳はその音を、
その部屋のなかで、ぐるぐると反復しはじめる。
反復が成功すれば、長期記憶のドアが開く。
失敗すれば、単語は、2秒後に消えます。
ここで、決定的なことが起きます。
自分の口で発音できない音は、その2秒の輪を、うまく回せない。
あなたが単語帳を100周めくっても、
輪郭のぼやけた音は、その都度、2秒後に静かに消えていく。
それを、ただ、延々と繰り返している。
(この仕組みは、心理学者 Alan Baddeley が「音韻ループ」と名付けて、もう40年以上前に 発表したものです。記憶の教科書には必ず載っています)
海外ドラマで、笑いが起きた瞬間。
海外ドラマを観ているとき、こんな経験はないでしょうか。
字幕を消したまま再生を続けると、登場人物が早口で何かを言って、
スタジオの観客が笑う。
あなたは、何で笑いが起きたのかが、わからない。
字幕を戻すと、たった4語の英文が表示されます。
その4語を、もう一度、音声だけで聞き直してみる。
それでも、聞こえない。
文字にすればぜんぶわかる。なのに、音は、素通りしていく。
これが「英語耳」の正体だと、私たちは長らく思ってきました。
ところが、本当の原因は、耳ではなかったのです。
人間の脳には、母語のフィルターで音を分類する癖があります。
日本語の母音は、5つ。英語の母音は、22個。
入ってきた英語の22個の音は、その5つの箱のどれかに、
ほとんど力ずくで、押し込まれます。
脳が「そんな音は知らない」と仕分けてしまえば、
鼓膜がいくら振動しても、それは「聞こえなかったこと」になる。
1991年、3人の研究者が、ある実験をしました。
日本人の被験者を集めて、/r/ と /l/ の発音だけを、2週間訓練させた。
訓練が終わったあと、被験者たちに “聞き分け” のテストを受けさせました。
結果は、想定外でした。
発音しか練習させていないのに、
聞き分けの精度が、有意に上がっていたのです。
口の動きを変えると、耳の解像度が変わる。
海外ドラマの音が素通りしているのは、
耳ではなく、脳の音の地図が、まだ「日本語仕様」だから、なのです。
(この実験は Logan・Lively・Pisoni の論文として知られていて、応用言語学の教科書に必ず載る基礎研究です)
言いたかった一言が、出なかった夕方。
金曜の午後、海外オフィスとの Zoom 会議。
あなたは、共有された議題を、英文メールから、すでに把握していました。
同僚のスティーブが質問を投げて、ボブが答える。
あなたの中には、「私は、こう思う」という意見が、もう、ある。
口を開こうとした、その瞬間。
何かが、内側で、ブレーキをかけました。
一拍遅れて、ジェニファーが話し始めます。
彼女は、あなたが言いたかったことの、半分だけを言いました。
残りの半分は、誰にも届かないまま、会議は次の議題へ進む。
帰り道、あなたは自分にこう言い聞かせます。
「もっと積極的にならなきゃ」
「文法の自信がないんだ」
「もっと単語を覚えれば」
違いました。
心理言語学の研究が示しているのは、もっと地味な真実です。
人が「話そう」のスイッチを引けるかどうかは、
文法力でも、語彙量でも、性格でもなく、
自分の口から出る音への、確信。
それだけで、ほぼ決まる。
発音に、ほんの少しの不安があるだけで、
内側のブレーキは、自動的に、かかる。
あの夕方、ブレーキをかけたのは、あなたの性格ではありませんでした。
(これは「人が話そうと思う力」を扱う研究で繰り返し示されてきた構造で、 MacIntyre らの研究の知られたところです)
3つの違う場所から、
同じ結論。
単語が抜け落ちるのも、
ネイティブの音が素通りするのも、
口から言葉が出てこないのも、
ぜんぶ、同じ場所が原因でした。
あなたの、口の中の地図。
その解像度が、英語のすべての上流にある。
だから、この本の最初の30日は、
単語でも、文法でも、ありません。
あなたの口の中の地図を、ただ書き換える、それだけです。
その変化は、しばらくしてから、
・読書中の、内なる声の正確さ
・ネイティブの音の聞き分け
・とっさに出てくる発話の流暢さ
という形で、あなたのところへ、ゆっくり戻ってきます。
「発音」と聞いて、自分の悩みとは違う、と感じた方へ。
あなたが諦めかけている英語力の “天井” は、
発音に手を入れたときに、はじめて、動き出します。